おしゃべりというと、「おしゃべり禁止」などと言ったネガティブに使われる言葉のように思われがちでありますが、喋り手(しゃべりて)となると別です。喋り手とは話す人、よく喋る人などの意味がありますが、今回お話をお聞きしたのはラジオ日本でプロの喋り手として長年アナウンサーを務め、現在はアナウンサーをはじめとした喋り手を育成している武田肇(たけだ はじめ)さんです。

"武田肇さん笑顔"

中学高校までバスケットをしていた武田さんは東洋大学に入学後、アナウンス研究会(アナ研)に入りました。東洋大学のアナ研は当時60名、現在も数多くの学生が参加する伝統あるサークルです。卒業後、ラジオ関東(現在のアール・エフ・ラジオ日本)に入社、アナウンサー人生をスタートしました。

入社当初は、プロ野球や競馬などのスポーツ実況を担当しました。その後、報道アナウンサーや報道記者を歴任、退職後はフリーランスを経て、アナウンサー養成スクール「A-STEP アナウンサーフォーラム」を立ち上げました。週2時間、月2回で半年間教えるコースを以前は一クラス6人体制の授業をしていましたが、極力マンツーマン的にするべく現在は一クラス4人体制の授業で、多くの喋り手を育成しています。

しゃべりの資質とは

しゃべるということは、内容を咀嚼してどこが重要かを判断する必要があると武田さんは話します。ニュースを朗読するとは言わず、ニュースは読みと言います。読むとは内容を理解して、重要な部分を知ることから始まります。一方、朗読や音訳(おんやく)は違います。朗読には一定の表現は必要ですが、音訳は音に訳すと書くとおり声の表現や感情移入もしない読み方です。文章を声で表現すると一言でいっても幾つもの表現方法があります。

「良い喋り手の資質はなんでしょうか」という問いには勉強し続けるられることが重要といいます。文章を咀嚼するために必要な知識はもちろんですが、自分のしゃべりや声をいつも聞いて、不明な発音や表現がないか常に勉強し続けることが重要な資質と言います。

もう一つ、よいしゃべりには文章の組みたてが重要といいます。言葉を発する前に文章を整理して段落を区切るように話す。喋り手として文章の組み立てが上手い人は、とにかく話が面白いと感じさせることが出来るそうです。武田さんのお話を聞いていても、質問に対するお話が区切られているのか、非常に明快な印象を感じました。しゃべりの上手いラジオパーソナリティーの伊集院光さんは落語家出身ですが、喋り手は文章の咀嚼と組み立てが全てなのだと武田さんは話します。

ネットの広がりと共に増えている喋り手

国内でテレビが出現したのは戦前の1939年(昭和14年)です。当時の新聞では、テレビのことを「眼で聴くラジオ」と報じました。それから70年以上たち、安価に映像編集できるスマホやパソコンとインターネットの出現により、個人番組や自主映画を制作配信することが誰でも可能になりました。

また映像を制作せずとも、一人ないし二人がカメラの前で、自分の好きなゲームや日常のニュースや話題を、YouTubeやニコニコ動画で自ら実況中継する喋り手も数多く生まれてきています。

米国の作家ジョン・グリーンは今年38歳の新鋭作家です。日本でもヒットした映画「きっと、星のせいじゃない。」(原題:The Fault in Our Stars)の原作者ですが、2007年からYouTubeに弟と一緒に運営しているチャンネルを持っていて視聴者数は700万人以上、動画再生数は16億回を超える米国を代表するビデオブロガーです。正確には著名ビデオブロガーが作家になったというのが正しいかもしれません。

"武田肇さん笑顔その2"

しゃべりの伝道師が言葉の温かさを紡ぐ

若い人の中にはアニメや映画などの声優志望も多く、かつてないほど声に対する訓練の需要が増えています。介護業界でも、施設内で入居者の方に聞いてもらう朗読などのインターネット専用ラジオ放送を求める声もよく聞きます。ラジオドラマ、童話など温かい言葉で語りかける朗読、楽しいしゃべりなど声を使うメディアのニーズは、多チャンネル多様性のインターネット時代だからこそ増えていると思います。

テクノロジーが進化しても、感動という感情は人の努力の積み重ねや些細な気遣いが産み出します。これからも武田さんが伝え育んだ喋り手の言葉が、ラジオやインターネットの波に乗り人を魅了していくことでしょう。


A STEP アナウンサーフォーラム

ジョン・グリーンと弟ハンク・グリーンのYouTubeチャンネル vlogbrothers