「枯れた技術の水平思考」で不明者の身元特定を迅速にする
2014年12月、グループホーム業界大手のメディカル・ケア・サービス株式会社は、ICTを活用した在宅介護支援サービスを提供する目的で、100%子会社の株式会社 みらい町内会を設立しました。
設立からちょうど一年、みらい町内会の代表取締役社長で、メディカル・ケア・サービスの常務取締役 事業開発本部長の堂本 政浩(どうもと まさひろ)さんに、今年2015年10月に開始したサービス「どこシル伝言板」のお話をお聞きしました。
行方不明者の身元がわからない状態を迅速に解決したい。
「どこシル伝言板」は、一般的なサービスカテゴリーで言いますと、インターネットを利用した認知症徘徊者の情報共有サービスです。
仕組みは、まずQRコードが印刷された布製ラベルを洋服などに複数箇所貼り付けておきます。布製ラベルは家庭用アイロンで熱圧着するタイプで、洗濯などにも強くはがれにくい東レトレシーの素材を使っています。
その後、行方不明者を保護した人がQRコードをスマホや携帯で読み取り、伝言板にアクセスして、現在の場所や健康状態を掲示板に入力すると、保護者にメールが届くというシンプルなものです。
QRコードを使ったサービスはいくつもありますが、他サービスの場合、QRコードを読み込むと認識番号と事務局の電話番号が表示され、電話をしてその番号を伝える手間や、電話が繋がらない夜間などは、警察署に連れて行かなくてはならないなどの課題がありました。
「どこシル伝言板」は、保護者が個人情報に触れることなく、掲示板という24時間システム対応できる仕組みで動いている事と、特に、スマホのアプリや、複雑な画面を操作することなく、「画面をスクロールして入力するだけ」と勝手が難しくないのが特徴です。
利用には、初期費用、月額費用など不要で、布製ラベルを同社から購入するだけです。布製ラベルの価格は30枚セットで1,980円、50枚セット2,980円、100枚セット4,980円になるとのことです。
誰もが知っているQRコードと、誰もが悩まない操作性
開発に至った経緯を同社代表取締役社長の堂本さんにお聞きしました。
「徘徊(単独外出)行方不明者が年間一万人と言われていますが、七割の方は当日以内に、三割の方は一週間以内に保護されています。ただ一部の方は残念ながら亡くなられたりしていますが、行方不明者の多くは保護された後、身元の確認に手間取っています。特に、警察の方も認知症サポーターの研修を受けられていますが、実際のところ初対面の認知症の方の対応が難しいという事実もありまして、そこをスムーズに解決する事が必要だと考え、サービスを開発しました」
警察の方も認知症対応には慣れていないので、保護から身元の特定までに、警察官がつきっきりになるなど今まで現場では苦労されていた点が、改善されるのではないかと言います。
「どこシル伝言板」は、事務局という管理者権限をみらい町内会以外に持ってもらう仕組みもあり、みらい町内会は事務局を市区町村などの現場に近い行政機関になって欲しいと考えているとのことで、お困りの地方自治体のご担当者の方はいかがでしょうか。
元民間介護最大手出身者など介護のベテランが揃う
今回、一緒にお話をお伺いした、メディカル・ケア・サービス株式会社の新規事業チーム、日髙 立郎(ひだか はるお)事業開発部 部長、植田 元気(うえだ もとき)事業開発部 課長の皆さんは元民間介護最大手出身の方々です。新規事業チームというと、異業種との連携を考え自社とは他分野のスペシャリストで構成する企業もある中、一貫し介護の現場を知り尽くしたチームとなっています。
京都の老舗ケームメーカー任天堂でゲームウォッチなどを手がけた横井軍平が持っていた独自の哲学に「既存の技術を既存の商品とは異なる使い方をしてまったく新しい商品を生み出す」(Wikipedia 引用)、「枯れた技術の水平思考」という考えがありました。
「どこシル伝言板」をはじめとした認知症徘徊の情報共有サービスは、多くの方に知って頂き、使って頂くことが重要です。そのためにはコストを安くという命題も含まれます。
IT系サービス会社は、Bluetooth LEや無線LANを利用といった新しい技術でサービスを提供する方向に向かいがちですが、利用目的を「行方不明者の身元特定」に特化して、誰にでも使えるITサービスで設計できたのは、介護現場での問題点を知り尽くしたチームだからなのではないかと思います。
サービス名が示すように、仕組みは「QRコードを利用したインターネット掲示板」ですが、月額利用料など不要で、QRコードといった万人に認識されている技術を使ったことにより、警察や市区町村の行政機関をはじめ多くの方に存在を知ってもらい不幸な事故を無くしてもらいたいと思います。