日本では現在約50万人が失語症で苦しんでいます。巨人軍永久名誉監督、長嶋茂雄も脳梗塞で倒れた一時期に、失語症になり長いリハビリをえて克服されたのを記憶している方も多いと思います。株式会社 Robocure (ロボキュア)は、ソフトバンクのPepperを利用した失語症リハビリ支援サービス ActVoice for Pepperを提供している会社です。今回はロボキュアの代表取締役社長である森本 暁彦(もりもと あきひこ)さんにお話をお聞きしました。

"Pepper"

まず、失語症を簡単に解説します。

失語症(しつごしょう、aphasia)とは、主には脳出血、脳梗塞などの脳血管障害によって脳の言語機能の中枢(言語野)が損傷されることにより、一旦獲得した言語機能(「聞く」「話す」といった音声に関わる機能、「読む」「書く」といった文字に関わる機能)が障害された状態。Wikipediaより引用

失語症のリハビリとは、言語聴覚士と言われるリハビリテーション専門職が、患者毎に訓練プログラムをつくり指導します。長嶋監督が失語症から回復した際にも長いリハビリが必要だったように、言語聴覚士と対面で根気強くリハビリをする必要があります。そんな言語聴覚士の支援をし、患者との一部の対面訓練をPepperに任せるサービスがロボキュアが開発したActVoice for Pepperです。

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CTOの原体験、千葉大学との共同開発そしてロボキュア設立

ロボキュアの原点は、同社取締役CTO(最高技術責任者)である石畑 恭平(いしはた きょうへい)さんが若い頃に手術の後遺症で失語症になり、その後長いリハビリから復帰した原体験と、千葉大学の大学院で、失語症リハビリの支援サービスを考えていた千葉大学大学院の黒岩 眞吾(くろいわ しんご)教授、千葉県にて失語症のリハビリ器具を開発しているメーカー、株式会社エスコアールとの必然とも言える出会いから始まったそうです。

ActVoiceとは、エスコアールが開発している紙カードを使った失語症のリハビリ専用機です。紙カードに使っている絵柄などはエスコアールが長年培ってきたノウハウです。この専用機ActVoiceをタブレット機器で動かせないかと黒岩教授が考え、プログラマーとしてゲーム開発など手掛けていた石畑さんに開発を依頼しタブレットアプリ ActVoiceSmartが完成しました。

黒岩教授が開発を依頼した際には、石畑さんが失語症を経験していたとは知らなかったそうです。さらに、臨床試験を開始した千葉県の君津中央病院でこのプロジェクトに言語聴覚士として参加している村西幸代(むらにし さちよ)さんは、むかし石畑さんの四年間に渡るリハビリを支えてくれた恩人なのです。点と点がつながった必然を感じてしまいます。

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リハビリ効果が2倍になったという臨床試験の結果

その後、ユーザーインターフェース開発などを手がけていた森本さんが参加し、タブレットアプリとは違うリアクションが返せるのと、人型で親しみやすいのでリラックスしながらリハビリができるのではないかという事をチームで考え、Pepperでの開発に着手しました。

今でもActVoice for Pepperは千葉県にある君津中央病院で臨床試験を繰り返していますが、最近の試験ですと人間による訓練では達成率20%程度で推移するのが、Pepperとのリハビリも併用すると約40%と2倍の成果が出て、その後50%前後まで上昇する結果が出てきているそうです。

その理由はPepperの親しみやすさとリアクションにあると森本さんは言います。ロボット相手だと患者は恥ずかしさや待たせては悪いなどの感情も無くリハビリに没頭できるからです。

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将来はあらゆるリハビリがロボットとの対話になる

その後プロジェクトから会社設立をし、ロボキュアの代表になった森本さんは「当社の強みはロボットを通じたリハビリのインターフェース」と言います。

ロボットは一生懸命にリハビリに取り組んでいる患者を根気強く待ちながら、温かいリアクションを返します。「僕にはりんご?って聞こえたよ」「もう一度やってみようよ」。その声をPepperが自然に返せるようになった裏では膨大な時間の臨床試験があったそうです。

店頭でティッシュを配るPepperや、ソフトバンクショップでスマホ案内をするPepperを見たことがある方は多いと思いますが、Pepperしか出来ない天職というのは今までなかったのでないかと思います。いま、ロボットはリハビリを通じて人間のお手伝いという天職を授かったのではないでしょうか。

産学連携と膨大な時間の臨床試験。手塚治虫がそうであったように、ロボットに夢を吹き込むのはいつも人間なのだということをActVoice for Pepperをみて思い出しました。


株式会社RoboCure
株式会社エスコアール
ActVoiceSmart