1980年代のパソコン全盛期時代には日本電気(NEC)、富士通と並びパソコン御三家と呼ばれていたシャープは独自アーキテクチャのパソコン「MZシリーズ」「X1シリーズ」「X68000シリーズ」、携帯情報端末ザウルスなど、他社製品との違いを特徴とした製品が多く利用者もそれを誇りとし製品を愛するコミュニティ活動なども盛んでした。その後「目の付けどころがシャープでしょ」や「目指してる、未来がちがう。」など他社との違いを掲げたていた同社は現在、三重県亀山市とヘルスケア事業に取り組んでいます。高齢者にタブレットやスマホ、健康端末を配布している実証実験は日本全国数多くありますが、他社サービスとの違いなどについて亀山市でのビジネスモデル実証が9ヶ月たちましたのでお話をお聞きしました。

"ご当地体操(「亀山体操」)、動画やアニメで動きを見ながら体操ができる"

今回お話をお聞きしたのは、シャープ株式会社 ビジネスソリューションカンパニー ソリューション開発センター第三開発部ライフケアチームリーダーの佐田 いち子(さた いちこ)さんと同カンパニー システムソリューション事業部 商品企画部 参事の松本 孝司(まつもと たかし)さんです。同部門はハードウェアメーカーの視点から少し離れてソフトウェアやサービスを開発提供するソリューション部隊になります。

「高齢者の健康寿命を伸ばすためにICTを活用できないか?」

2012年当時、シャープが「ライフケア未病倶楽部」に取り組んだそもそものきっかけは、「健康寿命奈良県一」をめざしていた奈良県王寺町で発足した「未病クラブ」という私設の高齢者団体メンバーとの出会いでした。「未病クラブ」は高齢者が自分たちで元気になろうという考えをもった健康DIY(Do It Yourself)の団体です。未病クラブのメンバーから意見をもらい、直観的で楽しみながら介護予防に取り組んでもらえる様、高齢者の現場での課題を解決しながら作り上げたのが、アプリケーションソフト「未病倶楽部」です。

その後、2013、14年度と奈良県の公募事業に採択され、同県橿原市にて「かしはら いきいき タブレット」というサービス名で200名規模の実証実験、さらに同様のサービスをシャープ社友会でOBにも提供、神奈川県ではHEMSやテレビと連動した実証実験などの経験を経て、現在 は累計で約500名の方に「未病倶楽部」を利用してもらっています。

またこの間に、健康データや端末操作履歴の蓄積などクラウド側の機能も拡充し、健康管理や見守りに活用できる「ライフケア・サービスプラットフォーム」として、完成度を高めていったと佐田さんは言います。

"シャープ、ライフケアチーム佐田さん"

地元シルバー人材センターの方をトレーニングして高齢者に教えてもらう

亀山市は人口5万人、65歳以上の高齢者は1万2千人、山間部が多く平地が25%程しかないため車など移動の足が必要な日本全国によくある典型的な地方都市です。高齢者が孤立しないようICTを活用し常にコミュニケーションのパイプが提供出来ないかと亀山市が思案していた時、奈良県王寺町、橿原市などの取り組みを見てシャープにアプローチがあったといいます。その後、経産省の公募事業にも採択され、シャープを代表団体とした複数の民間企業と地方自治体から成る「亀山QOLコンコンソーシアム」が発足し、亀山市でのビジネスモデル実証を経て現在の事業継続に至っています。

高齢者もICTを使いたい。情報が欲しい。ただ誰に聞いたら良いのかわからない。わからないことを二度聞きづらい。そんな悩みを解決するために、コンソーシアムでは、地元のシルバー人材センターに活躍してもらおうと考えました。地元シルバー人材センターに登録しているシニアの方が、「未病倶楽部」をインストールしているタブレットの利用方法を学び、高齢者に教える流れをつくる。特に独居の場合、ひきこもりがちになりますがタブレット利用の定期勉強会として月例会を開催しました。定例会の話を聞き月額2,980円の受益者負担ですが、徐々に口コミで広がっているとのことです。現在利用している方は平均年齢73歳、最高齢87歳の約100名になります。

「高齢者はICTを使いたくないのではなく、タップという意味も使い方もわからないだけ、誰かが教えてくれれば使いたいと思っている。YouTubeも見たいと思っています」と松本さんは語ります。

"シャープ、ライフケアチーム松本さん"

志を共有する七人のサムライ

本プロジェクトのキーマンである松本さんは過去にウェブ会議システムや特定分野のソリューションサービスを長年手がけてきた法人向けサービスの専門家です。本プロジェクトではコンソーシアムを組成していく中でシルバー人材センターや亀山市、第三銀行などパートナー各社と座組みや流れを一歩一歩整理してきました。特に血圧などのバイタル情報を含む、個人情報にあたる各種情報の取得方法や契約などライフケア事業に参入するにあたりクリアしなければならないハードルは多いと言います。

プロジェクトのリーダーである佐田さんは入社以来、自然言語処理の専門家として、パソコン時代の定番翻訳ソフトとも言われていたパッケージソフト「PowerE/J 英日翻訳これ一本!」やシャープの電子辞書に内蔵されている「会話アシスト」など翻訳エンジンの開発を担当していました。後年Googleなどネット企業による検索データをバックグラウンドにした翻訳サービスが台頭してくるなか、翻訳パッケージ業界は急速にシュリンクしシャープの独自翻訳エンジンも開発終息になりました。

そして 2012 年ヘルスケア担当となりました。活動を進めるうちに、単に「ヘルスケア」だけではなく、高齢 者に健康・安心・楽しみを感じていただけるよう、QOL 向上を目指すべきとの思いより、「ライフケア」とい う概念に領域を広げて取り組んでいます。現在は佐田さん、松本さんを含めた 7 名のメンバーが部門をこえてプロジェクトに参加しています。足掛け4年にわたる実績もできた現在、今後はどうやって「未病倶楽部」を広めていくか、全国への販売計画をどうするのか事業成長に向けプランを策定中とのことです。

"健康手帳、写真・メモ、服薬記録、頭の健康ゲーム、体操などの実施状況をスタンプで示すカレンダー画面"

健康元気を維持するのはDIY(Do It Yourself)精神

1980年代にパソコンに興味を持った世代でしたらご存知かもしれませんが、シャープ独自規格のパソコン「X68000 XVI」筐体には英文でこのような文が記載されていました。

Power to make your dream come ture.(あなたの夢を実現する力)

当時このシリーズはハードウェア基本設計を5年間は変えないというコンセプトでパソコンを販売していました。シャープは他社と違いハードウェアの進化よりもソフトウェアの蓄積と充実が必要であると考えハードウェアはデザイン以外あまり変更しませんでした。当時のパソコンは今のスマホスペック競争のような時代です。各社は一年おきに新しいハードウェアを搭載して買い替え需要を喚起していきました。その後シャープは一定のシェアはとりましたが、NECのPC98という国民機に飲み込まれてしまいました。

今となっては5年間という公約は結果的に間違っていたと言われています。ただそんな中、他社がハードウェアで実現することをソフトウェアの蓄積で自分たちで作ろうという考えを持った人達を多く輩出したパソコンだとも言われています。いわゆるDIYの精神です。そんなDIYの薫陶を受けたプログラマーは現在ゲーム業界、CG業界、金型業界に入り活躍をしていると聞きます。

"服薬記録の画面、忘れずに服用すると花丸が付く。アラームと連動させて飲み忘れを防ぐ"

タブレットやスマホを活用して健康年齢を向上される取り組みは、DVDレンタルなどでTポイントカードを配布しているCCC(カルチュア・コンビネンス・クラブ株式会社)が提供する高齢者向けの「ふるさとスマホ」や、日本郵便がAppleのiPadを高齢者宅に配布する計画など類似サービスがいくつか発表されています。

「自分たちの健康は自分たちで管理していこう」奈良県王寺町で産声をあげたICTを活用した健康元気なDIYの取り組みが、シャープと出会ったのは偶然ではないと考えたのは、たぶん筆者がシャープのパソコンでDIYを学んだせいなのかもしれませんが、健康元気を維持するのはあくまでDIYなんですよという考えを今回取材を通じ思い出しました。

健康元気を維持するという夢を実現する力となる。シャープの「ライフケア未病倶楽部」には今後も成長していってもらいたいと思います。

"シャープ、ライフケアチームの佐田さんと松本さん"


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